アレックス [DVD]

アレックス [DVD]

タイトル微妙だし、パッケージも微妙。
(今気付いたけど、これ右にはナイフが見えてたのね!モニカしか見えてなかった)
だけど散々なこと言われてることが多いので、怖いもの見たさでレンタル。

いや、ほんとに序盤からとんだクズつかまされた!と思った。
でも貧乏性はいくらつまんない映画でも途中退場したりはしません。
ということで劇場で観たらほんとに酔うでしょう。
公開当時って大丈夫だったのかな。
フランス国内では大ヒットだったって聞きましたけど。

グラグラグルグルのカメラワークは最悪としか言い様がないのですが
遠のいて間延びするサイレンの音(この現象なんて言うんだっけ)や
アホか!か、なんで?の二言にしか感想が分かれないギャーギャーうるさい登場人物たちのやり取りのシーン(しかもいくつもある)にも参りました。
サイレンの音より、登場人物たちの喧騒がほんとに耳障り。
自分が街や家で、第三者として、または少しの関わりを持つ人間として、人の言い争いや喧嘩を見ているようなイライラを感じた。


というわけで色んなレビューでも行き当たる言葉、不快、というものを嫌と言うほど感じたわけですが
最後まで観てよかったと思いました。
最初からちゃんと集中して観ておけばよかったとも思ったけど。
まあそれはDVDなのでOK


あ、そうだつい書き忘れてしまったけれども
問題のモニカ・ベルッチのレイプシーン。
いや、ボーイズ・ドント・クライに続き顔が歪む描写でした。
こんなひどいのは後にも先にも観ないんじゃなかろうか。
今まで色んなレイプ描写は見てきたけど、目を覆いたくなるように私が感じたのはこれが初めて。(boys dont cryはぬかす)
いやでもGIDレイプよりひどかったかもしれない。
目を離せないように、そこは序盤のグラグラカメラワークとまったく逆できっちり固定されていて
地下道で腹這いにさせられ、口を塞がれたモニカの必死な抵抗が
かすかな腕の動きと、獣のような叫びでのみ表されている。
その助けを求める、嫌悪感を示す叫び声は本当に聞くに堪えないものでした。
ものすごく時間の進みが遅く長く感じられて、もう少しで終わる、もう少しで終わる、と自分を慰めていても
行為は再三に及び、最後の最後で顔面を殴られ腹を蹴られ、顔がグチャグチャになるまでコンクリートに何度も叩きつけられる。
最初の方のシーンで、アレックス(モニカ)の彼氏・マルキュス(ヴァンサン)が昏睡状態で担架に載せて運ばれている彼女を見つけた時、
マルキュスに感情移入した私が思い浮かべた惨劇の過程よりも
実際アレックスが受けた暴行は数段ひどいものだった。
ほんとうに、何度も言うけどひどいの一言。
レビューで女性陣が「夜道の一人歩きが怖くなった」と言っていたのにも充分頷けたし
私自身もレイプシーンを観ている間は恐ろしくなりました。
これがトラウマになるんじゃ・・とも思ったほど。


とまあ、これだけだと気分は害されるわ夜の行動も懸念されるわ、
負の感情のみ受け取ってしまった映画で、観なきゃよかった、と思ったかもしれないのですが
話が進む(=時間軸が遡っていく)につれ、不快感とは違っていろいろ考える機会を得ました。

冒頭など、流して観る感じがしていて、実際私もそうしていたんだけど
どんどん引き付けられていって、そういう吸引力がすごいと思った。
いつの間にか引き込まれていた感じ。
アレックスが細いヒールの音を響かせて地下道を歩く後ろ姿は、
この後の惨状を知っているだけに男がいつ出てくるのかとヒヤヒヤさせらたし。


でもそういう、映画の雰囲気のようなものとは別に、冒頭と最後、または映画全体に掲げられている「時はすべてを破壊する」というメッセージを強烈に刻み込まれたと感じた。
映画が進むにつれて時間を遡るという、このメメント方式の語り手法は、ほとんどが二番煎じ、無意味、模倣というような言葉で一蹴されてしまっていたけど
私は違うように感じた。
アレックスの幸せで穏やかな生活と、彼女に起きた不幸とのコントラストを高めるに効果的であったと感じた人もいるようだけど、
私はこれにも違う印象を受けた。


話が進み、引きつけられていく中で、アレックスとヴァンサン、ピエール(2人の友人にしてアレックスの元恋人)が中盤、エレベーターと地下鉄の中で交わす会話。
未来はすべて決まっている、
正夢がその証拠、
セックスは言葉ではなく行為である、
女がオルガスムを得られないのはセックスできない男が悪い、、、
そんな台詞を聞きながら、冒頭の「悪行なんてない、行為だけがある」という台詞を思い出すと、
すべてがリンクしていることに気付いて。


地下鉄のシーンと言えば、三人で乗り合わせながら、アレックスの後ろに座るマルキュスは途中乗車してきたキャミソール姿の若い女に何度も目を向けていたし(超リアルなのね、これがまた!伸びした腕で顔を隠しながら目線は女のほう、っていう。そして何度もやる!)
三人が三人、違う方向を向いて座っていたのにも気になった。


言葉ではなく行為、という台詞は、ストレートに相手に伝えるということで傍目にも当事者たちにも分かりやすいけれども、
ギャーギャー言葉をわめき散らして話や目線があっちこっち行くのより
目線が固定されて淡々としていて、その直な感じが残酷でもあり。



なんか逸れてきたけど本当にこれを観ていろいろ考えた。
で、↑の中盤のやりとりを耳に、私は一瞬混乱を覚えた。
未来は既に決まっている、という言葉と、メメント式のストーリーテリング
時間は遡ってるのか?未来が決まっているなら、そこに向かっているつもりでいる私たちこそ、逆行してるんじゃないのか?と思った。
そんなことを考えていると、今度はアレックスがした正夢の話にリンクする夢の会話が出てくる。
アレックスがレイプされる前に見た夢は、レイプされた地下道や暴行を受けた顔、肛門から流れた血の色、絶望やマルキュスとアレックスのその後、マルキュスとピエールのその後を思わせる。

私こそが逆行しているんじゃないのか?という疑問を持ち続けてラストまで行くと、
カメラがまた回りだす。
グラグラしながら右回り、左回り、そしてどちらから回りだし、どちらに巻いているのかわからなくなる。
そのうち画面が空の先を見つめるように真っ白になり、かすかに流れていた音楽が大きくなる毎に、画面にも強いフラッシュが何度も焚かれ続ける。
一点を見つめていると見える幾何学模様が蠢き、瞬きをするとその動きが反回転する。
最後には冒頭のコマとメビウスの輪のように繋がる「時はすべてを破壊する」というメッセージが出てくる。



自分の考えと同時に進んでいく気がしてスッキリして
同時に本当に色々考えさせられてしまって
こういう感覚が久しぶりで面白かった。
DVDの特典で、時間系列再生(つまり、三人の関係性、アレックスの不幸、マルキュスの復讐、というように再生できる)というのまでできて
また頭が回る場所が用意されている・・
この再生法も妙で、だんだん逆再生したらおかしく見える人の動き以外、台詞すら後ろ回しにしてるんじゃ?という気になってくる。
繋がる最初と最後は、カメラがグルグルしてるからよくわからないわけだし。

「時はすべてを破壊する」なんて台詞のあとだと、こうして時間軸にそって再生したり一時停止させたり巻き戻したり早送りしたりしていることに滑稽をも感じつつ。
あれ?これがこうなってああなったんだよね?と思いながらも、その台詞は思い出させられ。
でもメメントよりずっとわかりやすく撮られていると思います。
そしてそれは謎解きがないという理由からではないと思うんです。


というわけでグルグルカメラのあたりはもう見たくないんですが
(基本的にDVDは夜中に自分の部屋で、明かりを点けずに煙草や酒をお供に観るので余計)
ものすごい力を感じた映画でした。
そばに置いておきたい映画ではない、だけどいつかまた観たくなる映画だと思う。
たしかに問題作、衝撃作と呼ばれるんだろう。
でも私はこれを駄作とは呼べないし、良作とも名作とも言い難い。
ただ、すごい力を感じた。
その力は暴力的でもあり、破壊的でもあり、時間に対して感じたものなのか、映画自体に対して感じたものなのか。


ギャスパー・ノエの映画は初めて観たけど
キャスト&スタッフのところで観た写真がまたやばそうな目つきをしているんで笑ってしまった。
しかも13歳で渡仏・移住したとはいえ、出身がアルゼンチンなんですね。
これを見て、南米・中南米の匂いがするスペイン語を喋るオカマたちが出てきたことを思い出しました。

父が画家をしていて、グッゲンハイムから助成金を受けてNYに移ったこともあるそう。
そして母は英語教師圏ソーシャルワーカー(え?)。
家族がアルゼンチンを出てフランスに渡った時、両親は政治難民だったそう。
丁度クーデターが起きて軍事政権になり、抵抗運動が激化した時のことだものね。


アルゼンチンて不思議な国で、ボリビアパラグアイウルグアイ、ブラジルなんかと隣り合う南米の国だけど
ヨーロッパからの移民が多くて住民のほとんどが(80%以上、くらい)ヨーロッパ系。
先住民系と混ざってまたなんともいえない肌の色、目の色、容貌になるわけで。
鳶色がかった金髪に緑の目、カフェオレのような肌、とか。
あ、日系もいますね。
美男美女が多いことでも有名、と思ってます。コロンビアほどではないか。

だからアルゼンチン人と言っても名前を見ないとルーツがわかりませんね。
逆に名前だけ聞いてあとでアルゼンチン出自と知ると「!」。
彼の場合、ノエ、というかギャスパーの時点でスペインではないと思いますが。
顔もエキゾチック。
あ、この人はいけめんではないと思いますけど。


やたら長くなったけど、他の映画も観てみたくなったのでした。