日記

鎌倉に行った。
藤沢に行った。
江ノ島に行った。
通り過ぎただけだけど。
とりあえず海の方角に歩いてと指示を受け、
しかし海がどちらにあるかもわからないので
これが潮風ってやつか?と思いながら
潮の香りなど微塵も感じないものの風が吹いてくる方向に向かい歩く。
方向音痴呼ばわりされることを自覚しているので
そして許容されうるくらいの常識を持ち合わせているので
道行く女の人に声を掛け、
「海はどちらですか?」。
女の人は観光で来ていたらしく、鞄の中から二冊のガイドブックを覗かせ
そのうち薄い地図のような冊子の方を広げて一緒に考えてくれた。
女の人は白いマスクをしていた。
私は寒さに耐えかね、黒いマフラーの首に巻きついた端を握って口と鼻を覆うようにしていた。
ありがとうございますと言って自分の間違った勘を潔く放り捨て
そして反対方向に、海の方向へ踵を返して歩く。


車の中から、左方向に海が見える。
左右に広がっていて青い。
海を見たのは何年ぶりかと思う。
私が22年間住んできたところには海がない。
晴れた海は眩しかった。
左手を眉のあたりに添えて海を見た。
泳ぐのではなくサーフィンだのなんとかボードだのをしている連中の器具がいくつも見えた。
海の方角を訪ねる若い女、という自分の一時の肩書きを意識した時
自殺?
と自分で思ったことはその器具の群れを見てすぐ打ち消された。
大体今日は晴れている。
しかもまだ昼下がり。
海に危なげな要素はまったくなく、
健康そのものだった。
少し感動した。
海は左右に広がり続けるように見えた。
でもよく考えてみたら、日本は海に囲まれているし
地表も海に浮かんでいるようなもので
あの海も本当に延々と左右に広がり続けていたのかもしれない。
自分の目に見えることが一番それらしく見える。
事実らしい現象。
それもまた事実。