今日もそそくさと会社を抜け出しさっさと帰宅。
南北線に揺られ、大沢ありまさを読んでいると
頭上から鼻をすするような音が。
花粉症をひきずっているには頻度が高かったので
思わず音のする右横を見てみると、リクルートスーツに黒い鞄、黒い髪の女の子が泣いていた。
涙が止まらないって感じで、
南北線の開かない方のドアの前に立って地下鉄の、トンネルみたいな暗いだけで何もない景色を見ていた。
手の平やハンカチで拭うでもなく、ただまっすぐ前を向いて泣いていた。
ああ、もうこれ絶対就活。
つらいんだろうなあつらいんだろうなあと思った。
大沢ありまさに視線を戻して、思いなおして鞄を探って駅でもらったジムのポケットティッシュを掴んだ。
まだ使ってないしもらって数日だからきれい。
シートのプラスチックのグレーの壁から腕を上げて、その女の子の前に出した。
女の子はずっと前を向いているから気付くのに少し時間が掛かって
しびれを切らした私が「これ」と言って私の腕が触れそうになった時ようやく気付いた。
女の子は涙で線がいっぱいついた顔でポケットティッシュを見て
私の方を見て語尾が消え入るような声で「ありがとうございます」と一瞬笑顔になって言ってティッシュを受け取った。
女の子はずっとその姿勢でドアに顔を向けて立っていて
少しの間泣き止んでもまた涙が出てくるのを繰り返しているようで
私が降りた時にもまだ電車に乗っていた。
早く家帰っていっぱい泣きなね、と思った。